脳波計のA/D変換に用いられるサンプリング周波数について
患者さんの頭部に配した電極から得られる電位差のアナログデータをデジタルデータに変換し、脳波を作成するデジタル脳波計。その機器において不可欠とも言える役割を果たすのがサンプリング周波数です。これはいったいいかなるものなのか、見ていきたいと思います。
脳波計の概要
人間の脳はその活動に伴って電気反応を生じさせます。患者さんの頭部に配置した21個もの電極から、脳活動に伴う電気変化を電位差として検知し、その時間に伴う変化を波形として表したのが脳波と呼ばれるものです。
脳波の導出には、単極誘導・双極誘導・平均基準電極法が挙げられます。それぞれの導出法に則し、21の電極を様々なパターンで組み合わせ、その組み合わせ1つ1つについて脳波を得ることができます。
この導出法および電極の組み合わせのことをモンタージュと言いますが、これは膨大な数に及ぶと言えるでしょう。その膨大な波形データに対応できるようデータのA/D変換、すなわちアナログからデジタルへの書き換え処理が必要となるわけです。
アナログとデジタルの意味
そもそも、デジタルとはいかなるものなのでしょうか?デジタルと相反するアナログと併せて、ここで確認しておきたいと思います。簡単に説明すると、データを連続的に捉えるのがアナログ、段階的に捉えるのがデジタル、と言うことになります。
データを時間とし、0秒から1秒までの間を測るケースを例に考えてみましょう。0秒と1秒の間は小数点以下の数字で無限に小さく区切ることができます。0.1や0.01、0.0000001あるいはもっと小さな値が無限に含まれています。0と1の間は、このような無限の小数で連続しているわけです。このような状態をアナログと言い表します。
対してデジタルでは、ある位を最小値と定め、これを基準に0秒と1秒の間を段階的に区切っていくことになります。例えば、最小値を0.1秒とした場合、0秒と1秒の間は10分割され、それ以上小さく区切ることはできません。
0.01秒などのように最小単位である0.1秒以下のデータは無視されることとなります。上に挙げた時間の例のように、自然界の現実的事象をデータとして捉えた場合、無限に小さく区切る連続的なアナログでは、無限のデータ量を取ることになります。
しかし、ある一定の位を最小と定めるデジタルで扱うと、データ量の有限化が可能となります。データ量が有限化できれば、これを保存し後で再現するなど、データの使用の幅が広がります。その特性を活用したものが、デジタル脳波計にも内蔵されているコンピュータと考えて宜しいでしょう。
デジタル脳波計では、各電極から得た電位差データをデジタル変換することによって、コンピュータ上でその再現が可能となります。前項にて、脳波のモンタージュは膨大な数にのぼると申し上げました。しかしそれをコンピュータ上で任意に再現することにより、全てのモンタージュにおける脳波が必要に応じて描き出せるというわけです。
サンプリング周波数
脳波をデジタル的に扱うには、そのデータについて最小値を定める必要があります。それに用いられるのがサンプリング周波数です。脳波は、縦軸に電位差、横軸を時間とするグラフ上に波形として表されます。
サンプリング周波数はその横軸についての最小値に関連します。つまり、デジタル上の脳波における時間軸の最小値を決定する際に適用されるわけです。例えば、サンプリング周波数を1000Hzとした場合、1秒間に1000回すなわち0.001秒ごとに電位差データを読み取ることとなります。
周波数の単位Hzとは、1秒間に生じる波の数を意味します。サンプリング周波数では、データ読み取り(=サンプリング)を波と見做し、これが1秒間に何回行われるかという観点から、周波数の単位を用いているというわけです。
デジタルでデータを扱う際には、その最小値を小さく設定すればそのぶんアナログの値すなわち現実の値に近づきます。つまり、データ的により精密になるわけです。デジタル脳波計においても、A/D変換時のサンプリング周波数が高ければ高いほど、より詳細な脳波が描き出されることとなります。
まとめ
以上の内容を要点にまとめると、以下の通りとなります。
◆脳波検査では、脳波の導出法および電極数の組み合わせ(=モンタージュ)が膨大な数となる。それに対応するにはデータのデジタル変換が不可欠。
◆デジタル変換において、1秒間のデータ読み取り(=サンプリング)回数を意味するのがサンプリング周波数である。
◆サンプリング周波数が高いほど精密な脳波データが得られる。