脳波計に設定される標準感度について
脳細胞の発する電気的反応を検知し、それによって脳状態の判別を行う脳波検査。精度の高い検査環境を整えるにはまず、脳波計の設定が適切になされていなければなりません。その設定の1つに、標準感度が挙げられます。これはどのようなものなのか、見ていきましょう。
脳波検査の仕組み
人間の身体を構成する細胞は、その生体反応として電気を生じさせています。それは脳を構成している神経細胞ニューロンも同様です。ニューロンによる生体電気について電位差として検出し、それを用いて脳状態を把握しようという主旨の検査が脳波検査となります。
その名の示す通り、脳波検査では脳細胞の生体電気が示す状態を脳波という形で表します。それは検出された電位差の時間的変化を表すものであり、縦成分を電位差・横成分を時間とした座標上に波形として形成されます。
波形には振幅すなわち山と谷があり、山1つ谷1つという1つの振幅で波1つというセットと見なされます。その観点に基づき、波形を判別する際には周波数という指標が用いられます。
これは、1秒間で波が幾つ発生しているかという指標であり、単位はHzとなります。その周波数の範囲によって、脳波はβ波・α波・Θ波・δ波に分類されます。検査では、データとして得られた脳波にそれら4種がどのように含まれているかを判別し、脳の状態を把握することになります。
脳波検査は、患者さんの頭部21箇所に電極を装着し、そこから検出される電位差を入力信号として読み取る形式で実施されます。しかし、電極から得られる信号は必ずしも脳細胞に由来するものばかりとは限りません。
実際には環境中の電磁波や脳以外の生体電気の影響を大いに受けることとなります。それらノイズに相当する成分を除去する必要があるわけです。そのために用いる機能として脳波計には、差動増幅器と周波数フィルターが備えられています。
差動増幅器によってノイズに由来する電位差が相殺され、周波数フィルターによって脳波以外の周波数が除去され、β波・α波・Θ波・δ波の範囲に属する周波数のみがデータとして扱われることになるわけです。
脳波計の感度
前項のようなノイズ処理を経た後の入力データが、脳波として扱われます。本来、脳に生じる電気反応はごく微小なものです。ノイズ処理機構を通過した入力データの電位差規模もまた、本来の脳の電気反応に準じた微小なものとなっています。
その微小な電位差を座標グラフ上に適切に表すべく設定されるのが脳波計の感度です。
検査において基本と定められている標準感度は、50μV/5mmとされています。これは、脳波を記録紙に描画する際、縦軸方向すなわち電位差について、50μVの値を5mmの長さで表すことを意味します。
乾電池1個の電圧すなわち電位差が1.5Vであることを鑑みると、10μVの単位で観測される脳の電位差は乾電池レベルの1/10万のスケールに相当することとなるわけです。脳に生じる生体電気がどれほど小さいのか窺い知れることでしょう。
検査の状況によっては、標準感度50μV/5mm以外の感度を設定するケースがあります。
小さな子供の場合、脳波の振幅幅が成人より大きくなる傾向にあります。それに合わせ、75μV/5mmなど標準感度より感度の低い感度設定で検査されます。
また、脳死判定を行う場合には、10μV/5mmの感度設定がなされます。脳波の振幅が2μV以下で継続するとこにより脳死と判定されます。それを確認するため、標準感度より4倍以上に感度を上げる必要があるわけです。
まとめ
以上のように、脳波検査の仕組みなど基本的な部分を踏まえながら、標準感度とは脳波の電位差成分を記録する際のスケールを適切に設定するための要素であることを見てまいりました。
標準感度は基本的に50μV/5mmとなり、脳波が微小な反応に基づいて表されるものであることを示しています。微小であるため、ノイズに強く影響されると言えるでしょう。だからこそ、脳波計に関してはノイズ除去の仕組みが重要となるわけです。