心電図の見方 QRS波が下向きになる理由は?
心臓の様子を調べる手段の1つ、心電図。そこに顕著に現されるQRS波を始め、諸波形は誘導別に上向きであったり下向きであったりと、違う形で表されます。心電図の手法によってそうなるのが常と言えますが、中には心臓の異常を示すものもあり、注意を要します。
心電図の仕組み
血液を全身に巡らせるポンプの役割を果たす臓器、心臓。それを動かしている器官が洞結節です。それが毎分約70回、電気信号を発し、それを受けて心房および心室が収縮を繰り返します。心電図とは、心筋の電気的変化を検出し、可視化した記録です。
波形の表現
心電図に用いられる波形は、心房の収縮を表すP波、心室の収縮を表すQRS波、心臓の弛緩状態を表すT波、そしてU波の4つがあります。心電図は、横方向を時間(秒)、縦方向を電位差(mV)とするグラフ上に図示されます。
P波
拍動で最初に表れる波形、P波は、心房が興奮状態へ移る過程を表しています。特に心臓に疾患のない場合では、まず右房に興奮が生じ、左房側へと移行する流れを取ります。
QRS波
心電図に描写されるQRS波は、左右の心室筋が緊張する過程を表し、複数の波からなっています。最初に検出される上下いずれかの向きの波をQ波、続いて逆向きに大きく振れる波をR波、最後にR波と逆向きに現れるS波、その3つの波から構成されているわけです。
心臓に異常がなければ、心室筋の緊張は左心室側から始まり、次いで中隔右心室、そして右心室、左心室、心尖部、心基部という順番で伝播します。その経緯を反映する波形がQRS波というわけです。
なお、QRS波の幅の正常値は0.06 ≦ QRS < 0.10 秒とされており、QRS波の幅が広い場合は心室内での興奮伝達が遅延していることを意味しています。
QRS が下向きに表れる原因は何?
心電図では、任意の電極2つを結び付けることにより、向きと区間を持つ直線すなわち誘導が設定されます。直線状で認識される誘導には、一方を+、他方を-という具合に方向が決められており、その誘導を12通り定め、その1つ1つに関して心電図波形を作図する形で検査が行われます。
それぞれの誘導に基づく心電図において、+側へ向かう電位は上向き(陽性)の波で、-側の電位は下向き(陰性)の波で表されるわけです。
12誘導を用いた心電図検査では、同じ電気反応について12通りの異なる方向から観測されます。方向の違いから、誘導によっては他と比べて心電図上の波の上下が逆向きに示されるものもあります。
例えば、四肢誘導の内の単極誘導の1つに挙げられるaVR誘導などは、他の誘導と波形が逆向きに表されるものの代表格と言えるでしょう。
aVR誘導は、右手首の電極と心臓の電気的中心に相当する不関電極を結び付けたものであり、右手首電極を+、不関電極を-としています。心臓から右肩へ向かう、右上方向の誘導となるわけです。
QRS波として表される心室部の電気反応は、正常な心臓では左下に向かいます。たいていの誘導ではそれが上向きのQRS波となって示されます。しかしaVR誘導で見ると、-に向かう電気反応となるため、下向きのQRS波となるわけです。
このように、心電図では誘導の向きの相違によって波形が異なってきます。
正常な心臓の電気反応をモデルとすることで、それぞれの誘導において正常な心電図波形が見出されると言えるでしょう。
正常な心電図波形と照らし合わせて、異なる点が見られる場合、心臓に何らかの異常が生じているものと考えられます。
例えばQRS波において、心筋梗塞などで現れる異常Q波では、虚血で壊死した心筋組織の起電力が無くなっていることにより、QRS波が本来とは逆向きとなります。
QRS波の波長は、疾患によって様々です。例えば、振幅が小さい場合は、「q」・「r」・「s」などの小文字を用います。1つのQRS波形内に、同じ名前の波形が再度発生する場合には、2番目の波形に ′(ダッシュ)を付けて区別しています。
T波
心電図上でQRS波の次に見られる波長、T波は収縮した心臓が拡張する際に表れる波です。その内、通常より高く尖鋭化したT波を高いT波と呼び、高カリウム血症や心筋梗塞の発症直後や、僧帽弁狭窄症などで見られます。
U波
拍動の最後に相当するU波はT波の次に生じる小さな波形です。このU波の成因は未だ解明されていません。
まとめ
今回は心電図を見る際に使われる用語とその意味についてお伝えしました。波形を正しく読み解く理解の手助けになれば幸いです。