麻酔器使用時には不可欠な、ベンチレーターの役割
手術など、身体の切開を伴う医療措置を取る際に欠かすことのできない麻酔器。それが果たすべき役割は、患者さんの麻酔状態維持の他にもう1つ、重要な事柄があり、その部分を担うのがベンチレーターです。ベンチレーターが果たす重要な役割とは何か、見ていきたいと思います。
麻酔器の仕組み
手術で専ら使用されることになる全身麻酔器。それは麻酔ガスを患者さんに吸入させることで麻酔効果をもたらすタイプの医療機器です。全身麻酔器は、ガス供給部と呼吸回路部という2つの装置で構成されています。
ガス供給部は麻酔ガスを生成する部分であり、呼吸回路部は患者さんの呼吸器官に麻酔ガスを送る部分に相当します。麻酔ガスはガス供給部にて、酸素・空気・亜酸化窒素といった気体と気化させた揮発性吸入麻酔薬を混ぜ合わせることで作り出されます。成分的に調整された後、呼吸回路部へ送り出されるというわけです。
呼吸回路部では、患者さんの呼吸に伴う吸気によって麻酔ガスを吸い込ませることで、患者さんに麻酔効果が及ぼされます。呼吸回路部は配管がループ状に繋げられた構造になっており、患者さんから吐き出される呼気も回路内を循環する仕組みとなっています。使用時間が長くなるにつれ、回路内における呼気の割合が高くなる構造とも言えるわけです。
そのままでは麻酔ガスによる酸素供給と麻酔効果に衰えが現れるおそれが生じかねません。それを防ぐため呼吸回路部には、呼気に含まれる二酸化炭素を吸収するカニスタや、余剰ガスを回路外に排出するAPLバルブといった機構が備えられています。
ベンチレーターとは
麻酔ガスのもたらす効果は、患者さんの意識や感覚を一時的に遮断することのみに留まりません。筋肉の活動に伴って生じる強張りを緩和する筋弛緩効果も併せ持っています。これにより、切開時の筋肉の妨げを抑制し、手術の安全性を高められるわけです。
しかしそこには、生命維持に不可欠な部分で働く筋肉をも活動低下させてしまうというデメリットも含まれます。生命維持に欠かせない呼吸は、筋肉の一種である横隔膜の働きにより肺が拡張・収縮することによってなされます。
しかし麻酔の作用によりその横隔膜の活動が弱まると、呼吸機能が衰えてしまうことになるわけです。麻酔により弱まった呼吸機能を補助するために用いられるのが、ベンチレーターです。人工呼吸器と同じ意味を指すベンチレーターは、患者さんの吸気・呼気を促し、呼吸状態を維持させる医療機器です。
横隔膜と同じような働きを人体外部から行うものと言えるでしょう。ベンチレーターは構造的に、麻酔器の呼吸回路部にほぼ類似しています。呼吸回路部には加圧バッグなど呼吸を促すための機構も備えられており、これが人工呼吸の役割を果たす部分となります。
患者さんに麻酔ガスが吸入されている時、その呼気にも麻酔効果が残留しています。呼吸回路部が循環型の構造となっているのは、呼気に含まれる麻酔成分を利用するためと言えるわけです。
しかし、麻酔器として使用せず、一般的な人工呼吸用として使用されるベンチレーターは、循環型の構造とはなっていません。呼気をそのまま装置外に放出するタイプが主となっています。全てのベンチレーターが麻酔器に兼用できるというわけではないのです。
まとめ
以上の内容を踏まえると、冒頭で示した「麻酔器におけるベンチレーターの役割とは何か?」という問いの答えは、「患者さんの呼吸の維持」ということになります。麻酔にはどのような効果があり、それに対応して麻酔器にはどのような構造および機能が必要となるのか? そういった観点を踏まえておくことにより、麻酔器への理解が深められるものと思われます。