脳波計に見られるアーチファクトの種類とその対処法
脳活動に伴う電気反応から脳の状態を判別する検査機器・脳波計。これを用いて脳波検査を実施する場合、アーチファクトの発生をいかに抑えるかという点が重要となります。その発生要因と対策について、脳波計の基礎的部分について触れながら見ていきたいと思います。
脳波検査とは
無数の脳細胞により構成されている脳。その活動に伴い脳細胞は微弱な電気反応を発生させています。その電気反応を電位差として検出し、これを分析することによって脳の状態を把握する手段が、脳波検査です。
一般的な脳波検査は、患者さんの頭部に特定の配置で21個の電極を取り付け、そこから電位差を検出する形式で行われます。その記録は縦軸に電位・横軸に時間を取るグラフ上に表されます。脳に生じる電気の流れは一定ではない交流であるため、グラフ上のデータは時間経過につれて電位差が振幅する波形を呈することとなるわけです。
脳波を構成する波形は、1秒間における波の数すなわち周波数が小さい順から、δ波・θ波・α波・β波の種類に分けられます。それら周波数の範囲は0.5~約30Hzです。その周波数領域においてどのような種類の波形が現れているのかを解析し、それを基に脳の状態や病状の有無などが判別されることになります。
アーチファクトとは
脳波をなす電気反応は、環境中にある他の電気反応と比較して極めて小さなものとなります。何の対策も講じられていなければ、脳波以外の反応がメインとなるデータしか検出されなくなるでしょう。
脳波に限定して着目する場合、それ以外の電気反応はノイズすなわちアーチファクトと見做されることになります。しかも、そのアーチファクトは脳波よりも大きな物理量を持つケースが多く、確実に除去されなければなりません。
脳波計には、アーチファクトを除く機能として、差動増幅器と周波数フィルターという2種の電気回路が備えられています。
脳波は、電位差すなわち電圧と周波数の2種の物理成分から表されます。そのうち、電位差に関しては差動増幅器、周波数に関しては周波数フィルターが対応し、アーチファクトに相当する量を取り除く仕組みとなっているわけです。
しかし、脳波計の機能に頼るのみでは、アーチファクト対策として充分とは言えません。電極と人体の接触によって生じる接触インピーダンスすなわち交流電気の流れにくさなど、検査状況に伴って起こるノイズ要因にも対処が必要です。
検査前の準備や、検査中に患者さんが動かないようにする処置、周辺機器からの電磁波を抑制する処置などが重要と言えるでしょう。
以下、アーチファクトの種類とその主な対応策について見ていきたいと思います。
生体現象による要因
人間の生命維持活動で電気反応を伴うのは脳ばかりではありません。その他器官も生体電気を発生させています。その脳以外の生体電気がアーチファクトとなるので、対処しなければなりません。
それの主な対策となっているのが、差動増幅器の役割です。
差動増幅器は、2つのデータを1つに合成させる機能があります。その際、入力される2データのうち1つは元の形から反転して入ってくるよう仕組みがなされています。
検査時に患者さんに装着される21の電極にはノイズ除去用も含まれます。そのノイズ除去用の電極から検知されるデータと、通常の脳波検出に対応する電極からのデータが、一方を反転させた形で差動増幅器に入力されると、両データの共通部分が相殺された形で出力されます。
その相殺された部分が、脳以外の生体電気に由来するアーチファクトであり、残った部分が脳由来の反応と見做され、脳波に用いられるというわけです。
それ以外にも、患者さんの動きにより生体電気が生じてしまわないよう、安静を促すための措置も必要と言えるでしょう。
環境要因
環境中には、電気機器などから発せられる電磁波が存在します。それが交流障害として脳波計に対しアーチファクトとして作用します。
それに対応する部分が周波数フィルターです。
フィルターには、通過させる周波数の領域を設定する機能が備わっています。幾つかの種類があり、それらの組み合わせによって、脳波に対応する周波数領域のみをデータに取り込み、それ以外を除外することができるわけです。
フィルター機能以外にも、検査中に交流障害を及ぼす電磁波などが避ける措置を取ることで、より正確な検査の実施が可能となります。
脳波計自体による要因
脳波計の一部である電極の状態あるいは使用法によって、正確なデータの妨げとなる要因が引き起こされる場合も考えられます。主に、電極の装着不良や、電極とペーストの間に生じる分極電圧などが挙げられます。
電極がしっかり取り付けられるような対処や、検査前日から電極をペーストに付けておくエイジング処理などを行うことが有効です。
まとめ
以上のように、脳波検査の障害となるアーチファクトの原因と、その対処法について調べてまいりました。脳波計に備えられている差動増幅器や周波数フィルターなどの機能のみならず、検査の事前準備や実施方法についても適正な手順を踏むことが重要と言えるでしょう。