全身麻酔法と酸素濃度
【はじめに】
麻酔の方法は大きく分けて「全身麻酔法」と「局所麻酔法」の二つに大別されます。
さらに全身麻酔法には、吸入麻酔法(気管内挿管法・マスク麻酔法)と静脈麻酔法があります。
局所麻酔法には、表面麻酔法、局所浸潤麻酔法、伝達麻酔法などがあります。
患者さんの状態や手術の種類に応じて、麻酔法を選択します。
【麻酔状態とは】
外科手術の際の痛みを取り除くため、薬物などを神経に作用させ、一定時間、無痛、反射喪失の状態を作り出す方法を麻酔といいます。中枢神経、あるいは末梢神経を一時的に、しかも可逆的に抑制するものを「麻酔薬」と呼び、それによって引き起こされる状態が「麻酔」です。
このような麻酔状態がどのようなメカニズムで起こるのかはまだ十分には解明されていませんが、全身麻酔状態の特徴は、無意識、無痛、筋弛緩、反射の抑制のすべてが整うものとされ、患者さんは眠っている間に手術が終わる仕組みになっています。
【低流量麻酔とカフ圧管理】
現在使用されている全身麻酔装置は、半閉鎖式麻酔回路であり、人工呼吸器とは異なる回路構成になっています。
人工呼吸器では、呼気はそのまま大気中に放出されるのに対し、半閉鎖式麻酔回路では、呼気を再度吸気ガスとして一部利用しています。これにより、揮発麻酔ガスの有効利用や、余剰麻酔ガスによる空気汚染の軽減が図られているのです。ただし、人間は酸素を吸って二酸化炭素を吐き出しているため、そのままでは低酸素状態、高二酸化炭素状態になってしまうので、ある程度の酸素を新鮮ガスとして供給し、二酸化炭素は一般的に「ソーダライム」と呼ばれる吸着材で吸着しています。ですので、人工呼吸器では分時換気量分の空気・酸素ガスが必要ですが、麻酔器ではより少ない量の新鮮ガス流量で麻酔維持を行うことが可能なのです。
このような麻酔維持が「低流量麻酔」と呼ばれる方法になります。
低流量麻酔で考慮しなければならないことはいろいろありますが、次の3点が大きな注意点と言えます。
1.新鮮ガス酸素濃度と吸入酸素濃度が異なること
2.麻酔ガス気化器設定値と呼気麻酔ガス濃度に差が生じること
3.回路ボリューム維持に注意が必要であること
患者さんの呼気は酸素濃度、麻酔ガス濃度とも吸気より低下します。分時換気量に比べ新鮮ガス流量が大きく低下すると、投与酸素濃度、麻酔ガス濃度よりも実際の患者さんの吸気濃度は通常低下することになります。
さて、ここで忘れられがちなのは、「3.」の注意点です。
新鮮ガス流量が少なくなると、わずかの回路リークでも麻酔回路内のボリューム低下に大きな影響を与え、場合によっては回路ボリュームが足りなくなり、麻酔維持が困難となります。最近は肺保護換気で、一回換気量を軽減するようになったため、分時換気量維持には呼吸回数が14~15回/分に増加することもあります。換気回数15回/分で一回に20mlのリークがあったとき、新鮮ガス酸素濃度流量0.3L/分では回路ボリューム不足になってしまいます。低流量麻酔では今まで問題とならなかったわずかな回路リークが影響を与える可能性があるのです。
回路リークで一番問題となるのは、気管チューブカフからのリークです。カフ圧を適正に維持しても、わずかなリークを防ぎ切れない場合もあります。
【まとめ】
ICU管理では、VAP(人工呼吸器関連肺炎)の一因となる微笑誤嚥を防ぐことに、カフ形状の違いが注目されています。低流量麻酔でもカフリークを最小に抑えるために、カフ形状が関与する可能性があるのです。また、適正カフ圧を維持しても術中に気管シール性能の変化により、リーク量が変化することもあります。低流量麻酔では以前よりも手術中の継続的な適正カフ圧維持が必要であると考えられています。
最近では、自動的にカフ圧を維持することを目的とした装置もいくつか市販されており、これらの活用が有効だと思われています。