血圧計は服を着たまま測定できるのか?

診断用機器

これから涼しくなる季節で、血圧計を用いる場合、患者が厚手の衣服を着ている場面も増えてくると思います。こうした場合、衣服を着たまま測定できるのか、袖をまくってもらって測定するのか、戸惑うことがあるかと思います。ここでは服を着たまま血圧を測定できるのか、確認していきたいと思います。

血圧計の歴史と仕組み

18世紀、動物の血管に管を入れて血圧を測定したことが、血圧測定のはじまりとされています。1896年、イタリアのリバロッチが考案した腕に巻くカフ(マンシェット)を用いた方法の開発、そして1905年、ロシアのコロトコフによる血管の音を聞く方法の開発を経て、人体において安全に血圧の測定が出来るようになりました。

この血圧測定法は、腕に巻くカフ(マンシェット)を膨張させ、血管を一時的に閉塞させたあと、徐々に閉塞を解いていきます。末梢側の血管で血流の音が聞こえるところを収縮期血圧(上の血圧)とし、そしてさらに閉塞が完全に解除され、血流の音が聞こえなくなる点を、拡張期血圧(下の血圧)として測定しています。

こうした原理から、一般的に服の上からでは音の記録を取りにくいため、収縮期血圧が低めに測定され、拡張期血圧が高めに測定されがちです。また、腕をまくったときに、袖がきつく腕を締めつけていると、正確な測定値を求めることが出来ません。

しかし、袖の上からカフ(マンシェット)を巻いて測定するケースは、日常診療ではまま見られることです。そうした場合、どのくらいの厚さの服までなら、正確な血圧測定ができるのでしょうか。第32回日本高血圧学会総会で発表された研究結果があります。衣服の種類や厚みが血圧測定値に及ぼす影響について論じたものです。

右腕に着けたカフ(マンシェット)の内側には、次の厚みの衣類を巻き込んで測定し、左腕の測定値を基準値として、影響を確認しました。

 0.2mm厚のシャツ  収縮期血圧0.9±3.2
 1mm厚のトレーナー 収縮期血圧0.2±2.9
 2mm厚のニット+シャツ(ニット薄)収縮期血圧0.8±3.0
 4mm厚のニット+シャツ(ニット中)収縮期血圧3.4±3.8
 7mm厚のニットシャツ(ニット厚) 収縮期血圧4.9±2.7
※シャツは0.2mmのものを用いています。

「ニット中」と「ニット厚」は基準値に対して有意性を持った高い血圧値となりました。膜型聴診器を衣類の上から当てた場合、「ニット薄」と「ニット厚」で有意差が出ています。拡張期血圧は、どの厚さのニットにも統計的有意差がありました。

以上の結果から、厚手の上着は脱いでもらったうえで服の上から血圧計を巻くことが推奨されています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。季節柄、服を着たまま血圧計を利用することも増えると思います。厚手の服の場合は、脱いでもらうことが必要ですが、薄いシャツの上からであれば問題ないようです。ご参考にしていただき、診察に役立ててください。

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